戦略的撤退だと思われたい

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みんなふつう−大槻ケンヂ『サブカルで食う』角川文庫

大槻ケンヂ『サブカルで食う』を読みました。筋肉少女帯が好きでよく聴いていて、オーケンはずっと好きで。けど、あまり著作を読んだことがなかったので、文庫化を機に購入。他の本も読む予定。

 

オーケンといえば、楽器ができるわけではないがバンドのフロントマンで、歌い方も歌詞もめちゃくちゃかっこいい。リアルタイムで知ったわけではない僕にとっては、CDのなかのカリスマでした。暗くてなよなよしてるけど、かっこよくてしびれる。ならば、彼の思想であるとか生き方というのはおそらく共感しつつも驚かされるようなものに違いないと思っていました。

ところが本著でオーケンが語る「サブカルで食う」極意は、むしろものすごくふつうのことで。極意は三つ。「才能、運、継続」これだけ。

「え?めちゃめちゃふつうなこというな」と僕はとてもがっかりしたのですが、このがっかりの正体を自分なりに掘り下げてみるとそれは、オーケンへのがっかり感ではないんですね。つまり、オーケンほどのカリスマであれば「サブカルで食う」ための驚くような、これまで僕が考えたこともなかったような、答えを提示してくれるはずと思っていて。でも実際はそんなことはなくて、何かを成し遂げる方法は地道な継続しかないんだという答えにたどり着いてしまった(自分も気づいてしまった)というがっかり感なわけです。

オーケンは才能と運はどうしようもないことだと書いています。そりゃそうですね、だからオーケンを含め当事者である自分が能動的にできることは「継続」だけなんですね。結局「継続のみが力なり」なわけです。

 

一方で「サブカルの人でいるということはどういうことなの?」ということについて、姿勢を改めようと思えるような言葉がたくさん登場しました。

 

それを受容することばかりに心地よさを感じてしまって、観る側のプロみたいになってしまうことってよくあるんです。
だからといって、批評、評論の目を養うわけでもなく、それこそツイッターとかに「今日はそこそこよかったなう」とかつぶやくだけで満足してしまう。それでいてチケットの取り方だけは異常に詳しい……みたいな。そういうのを「プロのお客さん」というんです。
(中略)サブカルになりたいならば、その結果、受容したものを換骨奪胎し、自分なりの表現としてアウトプットすることが重要です。(p36-37)

 

オーケンにとってそもそも「サブカル」であるということは、受容者ではなく発信者であるということで。それは僕自身ももともとそうだったはずなんですね。でも、いつのまにか大人になるにつれて、発信しなくなっていた。自己表現しなくなっていた。にもかかわらず「自分はサブカル的な人であるはず」という意識だけがいつまでも残っていて、実際はサブカルからかけ離れた存在になっていることに気付かされます。

 

じゃあ、自己表現をすればサブカルに戻れるのかというと、そうではありません。サブカルと呼ばれる分野は実際は「なにがサブカルなのか」という定義がありません。実態がないサブカルを追うだけでは「サブカルで食う」ことはできないとオーケンはいいます。

 

自分が底上げしたいと思えるジャンルやシーンを持っているということ。「俺はこれをどうしても世に知らしめたい!」と情熱を傾けられるものがあるというのはやはり重要だと思います。(p150)

 

僕はなにを底上げしたいんだろう。今更ながらそんなことを思い返します。「もともとは漫画が好きだったはずで、あと音楽も好きだったよなあ。でも最近は漫画読んでないし、音楽もそこそこしか聞いてないなあ」とか思うわけです。これではまずいこれではまずい。

 

ゆるりゆるりと「サブカルで食う」どころか「サブカルから離れる」ことになっていた自分に気付かされたわけです。自分が推したいものを掴み直し、自分なりに変換し自己表現をし続ける。ものすごく単純で、地道な方法の先に「サブカルで食う」があるということを知る機会となりました。

 

あと、最後に掲載されていた宇多丸さんとの対談のなかでいいなと思ったところがあって。サブカルでいるためには、「自習」が欠かせないと二人は語っています。つまり、いろんなジャンルのものを受容しようねということです。ただ、どんなジャンルであっても、「なにがよいのか理解できない、けど名作と言われている作品」があります。こういったものを「つまらん、なにがよいのか理解できない」と作品のせいにしてはいけないとも語っています。

 

「違うんだよ、「俺はコレで抜けるオトナになるのだ!」っていう確固たる覚悟を持って臨むんだよ!(p170)

 

サブカルでいる、サブカルで食うということは、思ったよりスポ根なようです。